September 2009 Archives

露口・こんぴら・高橋由一

とある写真展 のオープニングに伺うために愛媛・久万高原町へ。
久万は松山から車で1時間ほど、高知県と接する高原の町。
かなり山深い土地なのに、ここへコンテンポラリーな作家を招いて一年間のプロジェクトを組み、展示をさせるというその意気に率直に驚く。見応えのある展示です。

オープニングの後は山を下って松山市内にある有名なバー「露口」へ。
51年前から使われているカウンターとその奥に立ち続けているマスター、8オンスグラスで飲む濃いめの角のハイボール。角なんて最も廉価な普通の酒なのに、なぜか美味しい。

四国だし、ついでにと香川の直島と金刀比羅宮へも行くことに。

金刀比羅宮は昔から芸術の庇護者でもあるようで、なかなかの作品を所有しています。最近、真筆とはっきりした若沖の障壁画もありますがこれは非公開。
見たかったのは円山応挙晩年の筆が見られる表書院の襖絵と、高橋由一が奉納した油画27点。

高橋由一といえば「鮭」ですが、ここには「豆腐」があります。まな板の上に置かれた豆腐と焼き豆腐と油揚げ、の絵。
あるいは「なまり節」という、鰹のなまり節の絵。由一は当時まだ知られていなかった西洋油画の啓蒙喧伝のために、高尚高級ではなく、あえてこれらのごく日常的な画題を選んだと言われています。
が、それにしたって諧謔交じりなんじゃないか?という先入観はあくまで実物を目の前にするまで。


重い光。目の前にあるものの詳細をとにかく描き出そうとする粘っこい執着。
油絵具も、油絵具用の硬い毛の筆すらも容易には手に入らなかった時代に、自宅(らしい)の暗い片隅で焼き豆腐を凝視して、その焦げ目やまな板の濡れ感をなんとか描写するべく筆をさまよわせる姿を想像すると、凄みすら憶えます。


ここの27点が現存する高橋由一作品の3分の1というから、寡作の人だったのか?と調べてみたら、どうも晩年は洋画排斥運動や写真術の登場で不遇だったらしく、散失してしまったのかな。
写真と言えば、最近ふたたび掘り起こされている田本研造や小川一真は高橋由一とほぼ同時代人。一方でクールベも同時代人。写真術登場直後のこういった人々が最近気になっている。


sikoku.jpg




making a new book 1

蝸牛の歩みのごとく進んでいた写真集の制作が、具体的なステップへのぼりました。
下の写真はアートディレクター氏、編集者氏とともに構成を練る練るの様子。
判形もほぼ決まり、ページ数も決まったので、それに見合うように写真を組んでいくわけです。

写真は撮ることであるとともに、選ぶことでもあって、選択の積み重ねの結果、ひとつの新しい写真群ができ写真集が出来るわけですが、写真集が写真展で見せるのと違う点のひとつは、必ず他人の選択、他人の考え、視点を取り込まなければ、まともなものとしては成立しないということかなと思います。僕は狭義でアートブックと呼ばれる、排他性を前提とした本をつくる気はないのですし。

はじめは15枚程度の写真で、そこから、どうしたら自分が取り憑かれているものにくっきりとしたシェイプを与えられるかと、選択しては構成し直し、撮り足してはやり直しの延々で、人から見ればグダグダな作業ですが、しかし時間の許すなかで出来るだけ推敲を重ねることは必ず作品をよい方向へ進めるし、自分を成長させてもくれるものです。

小説家のレイモンド・カーヴァーは自作の書き直しを何度もしていて、またその作業を積極的に楽しんでいたとのこと。曰く「私が進んで書き直しをするのは、そうすることによって、自分が書こうとしていたものの核心にだんだん近づいていくことができるからではないかと思う。それが見つかるかどうか、私は手さぐりを続けなくてはならない。核心は、固定されたポジションにではなく、むしろプロセスの中にある。」(『書き直しについて』より)

写真には"撮り直し"を重ねるということはないのですが、写真集の構成をしているあいだ、このカーヴァーの言葉を僕は頭の中に付箋で貼っていました。
写真集を作ることと小説を書くことの単純な類比は誤りと知りつつ、写真を選び、並び替え、新たに撮って追加してはまた削除するという作業の繰り返しの過程に、始めた頃には見えなかった着地点がゆっくりあらわれてくるのを感覚したこの3年間。そしてその作業ももう終わります。

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